東京高等裁判所 昭和38年(行ナ)62号 判決
原告人 東洋レーヨン株式会社
被告人 ザ・スコテツシユ・ウールン・トレードマーク・アソシエーシヨン・リミテツド
〔抄 録〕
(一) 原告はまず、本件商標は「アミウール」の文字を一連に書した造語であつて、「アミ」と「ウール」に分けて認識されるものではなく、すなわち、たとえそれがもともと右の両者の結合によつて造られたものであつても、かようにしてすでにできあがつた「アミウール」は一体不可分に形成された一つの造語であるから右の両者に分離して観察される筈のものではないのであつて、このことは「ウール」の文字が純手製品をあらわす文字として一般に深く認識されているとしても変りがなく、これがために本件商標「アミウール」から「ウール」の部分が特に着目されるものではないという。
しかしながら「アミウール」の同一書体の片仮名文字を一連に書いてなる本件商標は、その外観と称呼の点においては「アミ」と「ウール」を不可分に一体に形成したものといい得べく、従つてこれらの観点からすれば、右の両者に分離観察さるべきものでないこと原告の主張するとおりであると認められるにしても、本件商標がさらに観念上においても右の「アミ」及び「ウール」の両者を原告のいう如くいわゆる不可分の一体に形成したものと見得べきかは問題であり、そしてこの点においてはこれを否定するのが相当であるといえよう。
すなわち「ウール」の文字が、本件商標の指定商品たる被服、手巾等の商品、その他広く織物、繊維製品等の取引において、羊毛(毛)製品(少くともそれを含む製品)を意味する語として取引界に一般に侵透した観念であることは極めて顕著であるが、この「ウール」の文字を含めて「アミウール」と一連に書かれた本件商標の文字に、その全体として右の「ウール」の観念を解消し去つた何らかの独自、固有の意味、観念が存在することについては、これを認むべき何らの資料も存しないのであり(もともと原告自ら「アミウール」が造語であると主張しているのみであつて、原告自ら「アミウール」ないし「アミ」の意味を明らかにしていないのである。)、また「ウール」の文字に前記の如く広く行きわたつた顕著な観念の存することに思いをいたすならば、これに単に意味不明の簡単な「アミ」の文字を冠して一連に用いたからといつて、ただかような一連使用の一事の故に、「ウール」に存する右のような観念が卒然「アミウール」の中に吸収され、全体として「ウール」の観念を払拭し去つた、いわば全く無意味の一語となり終るとは、実際の取引観念上理解、容認できないところである。
結局本件商標は、「アミ」と「ウール」を同一書体で一連にした点で外観上、称呼上両者を一体不可分に結合したとはいい得るにしても――その一体不可分性も後記(三)(b)の商標におけるが如く観念に消長を生ぜしめるほどの著しいものではなく、要するに一連併記の限度を出ないものたるに過ぎない。――、その結合の態様と「アミ」及び「ウール」の各文字の観念に関する右のような事実等に照らして全体的に観察するとき、それは観念上においては、原告のいう如く、「アミ」と「ウール」を不可分に一体に形成しているものとはなし難いのであつて、換言すれば取引上、右のような羊毛(毛)製品を直感させる「ウール」に、単に意味不明の「アミ」を冠したものとして受け取られ、全体として取引者及び需要者にその「ウール」の部分から商品が羊毛(毛)製品(少くともそれを含むもの)であるとの印象を生ぜしめるものというべきである。
(二) 次に原告は、「ウール」(WOOL)の文字はその本来の意味である「羊毛」あるいは「純毛」の外「羊毛状物、羊毛代用品」等の意味をも含み、それは「毛のような風合、性質を有する物」の意味を持つ語であるところ、最近の人造繊維の発展においてそれが基調として天然繊維の性質を目途としてなされた事実、その間における業界のこれについての商標使用の事例及び人造繊維の著しく発達した現在におけるこれに関する知識の増大等によつて、わが国現時の取引界の実状、取引者及び需要者の認識からすれば、「ウール」なる語は、単独に、あるいはハイフン等で区分して他の語と組み合わせて用いた場合には、その本来の意味に理解されるにしても、それが他の文字を前又は後に附して不可分の一体として用いられた場合には、前記のようにウールのような性質、風合等を持つた繊維製品を暗示するものと理解されるようになつているのであつて、かような実状、一般の認識からすれば、本件商標が「ウール」の文字を含んでいるからといつて、右のような意味を暗示するにとどまり、決して羊毛の製品であるかのような品質の誤認を生ぜしめるものではない、という。
ところで成立に争いなき甲第六二ないし第六六号証の各一ないし三、第六七、第六八号証の各一、二、第六九号証の一ないし三によれば、「WOOL」(ウール)の文字に「羊毛」の外「羊毛状物、羊毛代用品」、「毛のような風合、性質を有する物」の意味があることは明らかであり、そして原告の主張するように、最近のわが国における人造繊維の発展が、その基調として羊毛等天然繊維の性質、風合を有する物を目途として――もともと天然繊維と相並んでこれと異なる独自の特長を有する物を目ざしてでなく――なされ来つたものに外ならず、その間かような事情から取引界において、人造繊維製品につき、おそらくはかように念願、希求されているもの(の一つ)である「毛のような性質、風合を有する物」であるの趣旨を暗示するため「ウール」の文字に近い、「ウール」的な感覚をよぶような文字を商標に使用する例もなかつたではなく、そしてまた人造繊維が著しく発展し、ときに天然繊維に比肩さるべきもの、ある面ではこれに優るような長所を持つたものさえあらわれるに至つた現在において、取引者、需要者のこれについての知識が、その発達の未だしかつた頃に比し格段に進歩、普及していること等は、すべて十分に推察、理解されるところといえよう。
しかしかように「ウール」の文字にその言語上の意味として「羊毛」の外に「毛のような風合、性質を有する物」というのがあるにしても、なおまた人造繊維の発展とこれに伴う経過が以上のようであつたにしても、未だ原告の主張する如く、わが国現時の取引界の実際、取引者及び需要者の認識が、「ウール」なる語そのものが、これを単独に、あるいはこれに準じてハイフン等で区分して他の語と共に用いれば、本来の「羊毛」の意味に、また――本件商標におけるが如く――これを他の語と一連に組み合わせて用いれば、卒然転じて「ウール(羊毛)のような性質、風合等を持つた繊維製品」を暗示する意味に理解されるというに至つているとするのは早計というの外なく、本件においてかように断ずべき適確な資料は存しない。そもそもわが国における一般的な英語知識からすれば、「ウール」は繊維製品に関しては羊毛を意味するものとしてこそ普及しているのであり、羊毛を直感させるというのが顕著な事実であつて、それはこの「ウール」(羊毛)が、従来長きにわたつて絹、綿等と並んで繊維の本格的なものの一つとしての地位を保持し続けて今日に至つている事実に表裏相伴うことなのであり、人造繊維が発展して個々の特性においては羊毛に優るようなものさえ出現している現在においても、かように繊維の本格派として羊毛が伝統的に世人に培養し来つた、品質のすぐれたもの、貴ぶべきものとする心情、一般の風潮には未だ揺ぎないものがあるのは否むべくもないのであつて(もともと前記のように人造繊維の発展も基調として天然繊維の風合、性質を目途としてなされ来つたものであり、また人造繊維製品につき「ウール」と紛らわしい文字を商標として使用して「ウール」のような風合、性質を暗示しようとすることが行われたというのも、結局は以上の消息を物語るものに外ならない。)、従つて、本件商標におけるが如く、その一部に「ウール」の文字を含む商標が繊維製品(本件商標の指定商品たる被服、手巾は繊維製品たるを本来とする。)について用いられれば、それが全体として別の意味を持つとかその他「ウール」の部分に羊毛の意味感覚を喪失させるような格別の場合でない限り(本件商標がそうでないことは前記のとおりである。)、世人は一般にそれから、強く印象づけられている「ウール」の文字をおのずから抽出し、そこに「羊毛(毛)製品少くともそれを含む製品」を感得するというのが、わが国取引界の実状であり、取引者及び需要者の認識であると見るのが相当である。
(三) 省略
(四) 以上の如くであつて、本件商標「アミウール」はその「ウール」の文字から少くとも羊毛(毛)を含む製品を示すものというべきであるから、本件商標の登録は、その指定商品中化学繊維及び合成繊維の擬毛糸並びにこれと毛を除く他種繊維との混紡、交撚糸による被服、手巾については、旧商標法第二条第一項第一一号の規定に違反してなされたものというべきであつて、同趣旨に出た審決は相当である。
(山下 古原 田倉)